臭う足と心意気

謹啓

新緑のみぎり、間もなく五月を迎えようとすることでございましたでしょうか

特段とそのような心づもりであったわけではないなのですが、自粛疲れにも疲れ店の掃除でもしようと久々に店の扉をあけ、箒を手に取り、雑巾に水を含ませようとするうちに、何と申しましょうか、興が乗った、とでも申すしかほかならないのかもしれませんが、やれあそこが汚い、やれそういえばあそこが前々から気に入らなかったのよ、と時間を忘れ憂き身をやつしてしまいますのが小生の性分といいますか性癖といいますか、多分に見られる傾向にございます



思えば5年を迎えた当店でございますが、5年前のその当初は、やれ金なしやれ時間なし、と未熟な小生自らがあれよこれよとなんとか店として人様をお呼びたてできる最低限の形にしたわけでございまして、決して満足のいく形で開業できたわけではございませんでした。そのあとも少しずつ足したり引いたりましてや掛けるなんて、となんとか割り切ってここまでやってきたわけですが。いやはや改めて時計の針を一度止めて四顧してみますと、どこもかしこも己の未熟と不精が切磋琢磨したような様に肝を冷やすのみであります

そんなわけでありまして、金なしは変わりませんが、幸か不幸か時間は濁って溜まるほどございますし、小生の意匠の技量も5年前に比べましたら些かは歩みがみられ、あとは不精のケツをたたきませば、機は熟した、と高々に拳を振り上げることはしませんまでも、今となっては恥ずかしと赤面するしかない店の状況を変えることも叶うのかなと手を胸においたしだいにございます

はてさて、一度そうなってしまいますと小生という生き物はまさに寝食を忘れ昼夜となく突き進んでしまうのが長所と申しますか短所と申しましょうか。猪突猛進猪突猛進。

再び意識を取り戻したその男の前には以前の男が思いもよらなかった世界が広がっていたのであった。といった語り手の台詞が聞こえてこようかという意識薄弱な3週間の後、見事小生の眼球の角膜と水晶体と通過し網膜にたどり着き電気信号に変換され視神経を経て脳に伝わった数々の光は、30,240分前とはまるで別物にございました


いかんせんこのようなご時世にございますので、小生のような小商いなど吹いて飛んで舞い上がって風に流され川に流されどんぶらこどんぶらこと川で洗濯するおばあさんに拾われることもなく海の藻屑となるような存在でありますので、このまま小生の商いも終いかな、などと頭をよぎることもありましたし、今でもその思いは消えることなくございます

しかしならばそれならば、このまま消えてなくなることになろうとも最後はせめて潔く有終の美を飾るってやろうめべらんぼうめ、というのがこの時代に根を張る粋人としてのせめてせめての悪足掻きでございましょう。いつまで続くかは存じ上げませんが、小生の有終か、はたまた恒久かはわかりませんが、その美と心意気の結晶を、どうぞ一度見物しに来ていただければ小生の想いも成仏してくれんじゃあないかと思う所存にありんす

まぁ小生の些か臭う足で足掻きますゆえ、もしかしたらしつこく臭いが染みつき消えぬかもしれません。まぁそれでその時は、こんな戯言もあったもんだと一笑にでも付してくださればそれもまた良き酒の肴になり一興かと

何はともあれ珍妙なることには変わりなく、されど一新した意匠でみなさまをお出迎えさせていただきたく存じ上げております。高瀬川の紫陽花も良き頃合いかと存じますのでみなさまの自粛太りしたお顔を近々拝見できること一日千秋の思いでお待ち申し上げております

敬白



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