定員『お会計は?』 客『えーと、4杯で6000円で』 私たちはこの1ヶ月ある実験をした 『Pay what you want』 つまり『好きな価格をお支払いください』という会計方式である 『なんでそんなことをやってるんですか?』 と訝しげな顔をされてもそんな明確な目的はない ただおもしろそうだから実験してみた、というのが正直なところである しかしあえて理由付けすのであれば ・今、『お金』がおもしろい ・ボクの100円とあなたの100円は違う ・体験を売る、のなら という感じである
今、『お金』がおもしろい だからこそ自分なりのお金の新しいことに挑戦してみたかった Bitcoinなどのブロックチェーンをつかった新基軸の通貨の誕生、キャッシュレス化に伴う紙幣感覚の変化、シェアリングエコノミーやサブスクリプションの普及による消費心理の変化 そんな既存の貨幣経済を揺るがす新しい価値が蠢く社会情勢の中で自分の店だから試すことのできるものを考えたとき思い付いたのが『Pay what you want』だ
自分の店は8割が海外からのツーリストだ そしてかなり多様性にあふれている 国で言えばオーストラリア、アメリカ、ヨーロッパ諸国から来る人の割合が多いが、アジア、南アメリカ、アフリカ、オセアニアなどからもそれなりに来る そして国にかかわらず所得層も様々、例えば1泊3000円のドミトリーに泊まっている若者も来るし、1泊30,000円以上のラグジュアリーホテルに泊まっている年配夫婦も来る そんな多様な価値基準の人が訪れる場所が画一的な価値を押し付けていいものだろうか? というのは前から感じていた違和感だった ボクにとっての100円とあなたにとっての100円の価値が実際問題的に違うのがうちの店なのだ それならいっそその価値観をそれぞれに返してみようと思ったのだ
さらにECやライブコマース、サブスクリプションなど小売の形態が変化していくなかで、今後の小売業、とくに実店舗での販売は、より『体験を売る』ということにシフトしていくとされている それは飲食店も同じで、ただお腹を満たすならコンビニでいいし、ただ美味しいものを食べるならUberEatsで事足りる 自分も実験的に定期購入で『Base Pasta』を契約している そんななかわざわざお店に足を運んでもらうためにはそこでしかできない体験や雰囲気がなければならない それは音楽業界がCDを売る商売からサブスクリプションとライブという2つにモデルに枝分かれたのと一緒であろう よりイージーなものと、よりスペシャルなものへの二極化はこれから色々な分野でより進むだろう しかしそのなかで、『体験を売る』といっているのに原価ベースでの商売から抜け出せていない、という違和感を感じた それならもうその原価ベースの考え方も一回やめてみようというのもPay what you wantの意図だ 今まではだいたい1000円前後の価格に収まるような原価ベースで作っていたメニューがPay what you want にすることで体験ベースで考えることができ、より自由度が広がった
さらに原価=支払額にならないことが多いこともおもしろかった
原価ベースだと900円の想定価格なカクテルがプレゼンテーションが優れていると想定価格1200円のカクテルより高い値段が支払われることが多いのだ
それによって今までの原価ベースのメニュー考案から、どうしたらよりスペシャルな体験をしてもらえるか、をベースにメニューを考えるようになってきている
そしてより極端な雰囲気を作りたくもなった うちの店はもともと誰もが楽しめる店ではない、楽しめる人楽しみたい人が楽しめればいいと思っている しかしこれまではそれでも誰からも同じ値段をいただくわけなのでそれなりにそれに答えようとしてきたが、Pay what you wantならそんな配慮もいらない 楽しめなかった人はお金を払わず帰ってくれてかまわない その代わり楽しめる人により楽しんでもらえる雰囲気作りに挑戦できる
まだ1ヵ月だが、その結果を言ってしまうと、売上は25%ほど上がった もちろん原価ベースの想定価格より低い値段を払う人も少なからずいたが、それ以上に高い値段を払ってくれる人が多かった そして高い値段を払ってくれた人たちの方が再度来店してくれることが多かった しかし例えば牛丼チェーンでPay what you want をしても同じ結果にはならないだろう 前提条件として、 うちに来るのが海外からのツーリストがほとんどであること(実際日本人の払う価格はツーリストに比べて低かった) うちがカクテルバーであること(日本のカクテルバーの価格設定はかなり低い) うちのお店がこれまで築いてきた雰囲気、カルチャー、評価があること 料理より1オーダー当たりの価格が想像つきやすいこと(サラダと前菜とメインの合計を考えるよりカクテル3杯の合計の方が直感的に分かりやすい) などいくつもの要因があるだろう 『じゃあうちも!』とやってみるのは止めないが、うまくいかなくても文句は受け付けない
Pay what you want をやって感じた一番のポイントは『価値』を生み出すことによりフォーカスした考え方になったことだ 新しい、ここにしかない『価値』を考え、表現し、体験してもらう これは思いの外、でもないけど自分にあっている 原価ベースでの物売り、からエンターテイメントに鞍替えした気分だ それなので今後もPay what you want を続けていこうと思う 今後の課題は『新しい体験を新しい文化へ』だ
小売りから体験は実は本質ではなく、『新しい価値』を示しそれを『文化』にできるかがこれからのポイントだと思う
この話はまた後日したいが、
千利休はお茶と茶室いう体験を使って『自分のカッコいい』を表現し浸透させ、それを文化にまでした 自分もカクテルとnokishitaという体験を使って『自分のカッコいい』を表現し文化にしたい なんともエゴイズムな考え方だが悪くはない 個人のエゴが薄い文化なんて退屈だ